詩(うた)の向こうに
詩・その表現の向こうに 広がる世界・・・
扉を少しだけ開けて、覗いてみましょう…!声楽曲の歌詞(詩)にも注目します。
『魔法』 谷川 俊太郎
青空はどうしてどこまでも青いの
子どもが問いかける夏の昼下がり
誰もほんとうの答えを知らない
風にゆれる木立がかぶりふっている
答えはないけれど青空は美しい
子どものこころは歓びにはじける
この今にこうして私たちは生きる
見えない手が始めた時は果てしない
誰も問いかける手だてを知らない
雲間から太陽がほほえみかける
答えはないけれど小鳥たちは歌い
世界は限りない魔法に満ちている
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声楽曲の歌詞(詩)も、覗いてみましょう。
歌とピアノの作品より... 歌と言いましても、皆様ご承知の通り、世界中、日常的にたくさんのジャンル、いろいろな種類の歌が存在しています。歌とは、声を発するという行為による、人にとって最も根源的で自然で日常的な音楽の形態の1つと言えるでしょう。
そんな中、 一般的には かなりマニアックな曲となりますが。。。ジャンルはクラッシック、フランス人の作曲家により作曲された、フランス語の歌曲をご紹介いたします。
まずは…【ステファヌ・マラルメによる3つの詩 】全3曲 から成る声楽曲集です。
詩はフランス19世紀を代表する詩人の1人、ステファヌ・マラルメ (1842〜1895) の作品より。作曲は19世紀末から20世紀に活躍し、数々の作品をのこしたフランスの作曲家、モーリス・ラヴェル。(1875~1937) ※同じフランスの作曲家 ドビュッシーも、これらの詩に曲をつけています。
詩というものは、ただでさえいろいろな想像力が必要と思いますが、特に外国語で書かれた詩ですから、日本語への訳し方によって 本当に随分と印象が違ってきます。
ダイレクトに原語で読み、受け取れるのが最も良いですが ... 訳す時に苦労していろいろ考えることが、のちに、いろいろな味わいへと繋がっていくかもしれません...。
ですので、できるだけ、自ら訳すことに挑戦したいものです。私も頑張ります。
上記から、例えば 第2曲 "Placet futile " を見てみましょう。
まず原文 ( フランス語 )がこちらです。
"Placet futile "
Princesse! à jalouser le destin d'une Hébé
Qui point sur cette tasse au baiser de vos lèvres;
J'use mes feux mais n'ai rang discret que d'abbé
Et ne figurerai même nu sur le Sèvres.
Comme je ne suis pas ton bichon embarbé
Ni la pastille,ni rouge,ni jeux mièvres
Et que sur moi je sens ton regard clos tombé
Blonde dont les coiffeurs divins sont des orfèvres!
Nommez-nous... toi de qui tant de ris framboisés
Se joignent en troupeaux d'agneaux apprivoisés
Chez tous broutant les voeux et bêlant aux délires,
Nommez-nous... pour qu'Amour ailé d'un éventail
M'y peigne flûte aux doigts endormant ce bercail,
Princesse,nommez-nous berger de vos sourires.
以上、自力で訳してみます。
(分かりやすくする為、かなり意訳させて頂きます...)
「むなしい 歎願 (たんがん) 」
王女様...!
私は、貴女の唇が触れる、そのセーブル焼のカップに描かれた女神エベがうらやましい...
私は貴女に恋焦がれていましても、神に仕える慎ましい身ですから...
セーブル焼きのカップに描かれることはありません。
私は、貴女の愛玩犬ではなく、キャンディでも、口紅でも、遊び道具でもありません。
私は、貴女からの、私に対して興味のない眼差しを感じています。
貴女の金髪は、素晴らしい理髪師たちに仕上げられ、まるで金細工の様...!
私たちを任命してください...
貴女は、木苺の様にみずみずしく とても輝いているので...
神への誓いを食(は)み、妄想にとりつかれた様に鳴く、飼い馴らされた子羊たちの群れに取り込まれてしまいます。
私たちを任命してください...
扇の様に広がった翼をもつ愛の神によって、私が、手にした笛で羊たちを寝床へ帰す羊飼いとして描かれます様に...
王女様、どうぞ私たちを、貴女の微笑みの羊飼いに任命してください...
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王女様と呼びたくなる程の、憧れの女性...自分は相手にされていないと分かっていて、切ない想いに苛まれている様子です。詩(うた)われている事は、はっきりしていると思うのですが... 訳すとなると、言い回しが難しいのです。
この詩に、作曲者ラヴェルによって音楽が付けられ、声楽曲となったのです。
当時、最先端であったラヴェル独特の和声、神秘的で緻密な音楽が3つの詩と融合し、その世界観が表現された作品となっています。かなりマニアックな作品だと思います。
この声楽曲「ステファヌ・マラルメの3つの詩」全3曲を、2023年3/10(金)、名古屋フランス音楽研究会 第34回公演「それぞれの明日へ ~国民音楽協会と新たな風~ 」( 於:電気文化会館 ザ・コンサートホール )にて、演奏いたします。メゾソプラノの歌唱に、フルート2本、クラリネット2本、ヴァイオリン2本、ヴィオラ1本、チェロ1本、そしてピアノの 総勢10名のアンサンブルを指揮者が束ねる「室内楽ヴァージョン」でお届けいたします。